WET







君はいつだって真っ直ぐで、美しい。




「・・・ふっ・」
くぐもった声が女の唇から漏れる。苦しげなその声でさえ誘っているように感じられて、マスタングはさらに深く舌を絡めた。
「ん・・・」
ほんのりと紅潮した頬に指をすべらせてやると、たっぷりとした金の睫毛に縁取られた瞼が震えた。
ホークアイの白い手が艶かしく彼のシャツを握る。
こういう時、マスタングは彼女の全てが自分のためにあるかのような錯覚に陥る。
頭の先から爪先まで、ぬるりと擦れ合う舌先も、味蕾の一粒一粒も、全てが愛おしい。
そんな陶酔感にまかせて、男はホークアイのシャツの中に手を滑り込ませその素肌に触れた。
「!・・」
その感覚にびくりと震えた滑らかな背に、唐突に感じる凹凸。それは紛れもなくマスタングがつけたものだ。
 彼は彼女の背を焼いた時、恐ろしい程の無力感に襲われた。
力を手に入れてなお、皆の幸せどころか、たった一人の少女の両手さえも守れぬままだった。
そしてそれと同時に感じた、あの目の眩む様な熱情を今だに忘れられずにいる。
刺青が這い、熱傷の痕が残るこの何よりも美しい背を知るのは自分だけだと。<それを自覚した時から、マスタングの胸は甘美な熱を孕んだままだ。
 その反面、彼の中の冷静な部分はひどく怯えている。
よりによってホークアイに傷をつけたのに、そのことにある種の興奮を覚えた。
その事実を認識していながらも無視している罪深さに、気が付いているのだ。
 「・・・中尉」
散々舐りあい、唾液で濡れた唇を軽く触れ合わせたまま、マスタングは囁いた。
「君は・・」
ゆるゆると瞼を開けたホークアイの眼がマスタングを見る。
「君は、後悔していないのか・・?」
たとえ選んだのは彼女自身でも、ホークアイに軍人という選択肢を提示したのは明らかに自分だと、マスタングは思っていた。
それを確認する度に、彼は恐ろしくなる。
本当なら、彼女は銃ではなく花を選べたはずだったのに。
「たい、さ・・・?」
困惑したようなホークアイの声に、マスタングは内心自嘲的に笑った。今更何が起ころうがなにも変わらない。それは確かだ。
どうにも今日は弱気になっているらしい。
取り繕う気にもなれず、ホークアイの眼を見ると、近すぎてぼやけた焦点がもどかしい程に、自分を見つめているのが分かった。
「・・・・すまない。何でもないんだ」
「・・たいさ」
甘い潤みを湛えたままの紅茶色の瞳が、真摯な色を宿している。
「・・生憎、私は後悔なんて持ち合わせておりません」
くらりとした眩暈が、マスタングを襲う。
「・・・君には適わないな」
軽く触れ合わせていた唇を強く押し付けてから、男は苦笑した。
「・・あら、今頃気が付きました?」
彼の前髪を梳いて、ホークアイがくすりと笑う。
「いや、知ってた」
マスタングは甘ったるく囁いて、その柔らかな肢体を抱き締めた。












弱気になる大佐。
支える中尉。
美味しい。(大佐が)